ルーマニア北部ロドナ山脈国立公園での違法伐採(2017年10月)
環境調査エージェンシー(EIA)は、ルーマニアの二番目に大きな国立公園でオーストリア木材大手Holzindustrie Schweighofer社と関連する違法伐採の明らかな証拠を発見した。ルーマニアの国立公園はヨーロッパに残された最後の野生の自然の一部を擁しているが、それは、破壊的な商業伐採と違法伐採の深刻な脅威に晒されている。海外市場の木材需要、ルーマニアの木材サプライチェーンの有効なトレーサビリティ(追跡可能性)の欠如、そしてシュバイクホファー社のような大手木材買付企業が調達から不適切な木材を排除できずにいることにより、ヨーロッパの最後の壮大な森林が広範囲で破壊されている。
ルーマニアで最も多くの針葉樹丸太を消費する企業であるHolzindustrie Schweighofer社(シュバイクホファー社)は違法に伐採されたルーマニア産木材を大量に調達してきたため長年にわたり国際的に注目されてきた。森林管理協議会(FSC)は詳しい内部調査の末、2017年初めにシュバイクホファー 社のFSC認証を剥奪した。この木材大手企業は近年、いわゆる改革をアピールしてきたが、EIAの新しい調査で同社の基本的な調達のあり方がほとんど変わっていないことが分かった。シュバイクホファー社は、ヨーロッパの最も傷つきやすい生息域での違法で破壊的な伐採の重要な要因の1つであり続けている。
ルーマニアのロドナ山脈国立公園には、東カルパティア山脈の最高峰が‘あり、クマ、オオカミ、オオヤマネコ、絶滅危惧種のシャモア(Rupicapra rupicapra)が生息する。国立公園の森林の大半は、十数年前に地元町議会に返還され、民有地となっている。国立公園の半分以上の面積で商業伐採が許可されているが、ルーマニアの法律では、そのような伐採の実施は厳格にコントロールされることになっている。
国立公園の東側にあるララ谷でEIAは様々な違法伐採の形跡を見つけた。EIAは、全国の輸送許可証の登録を即時表示するルーマニア政府の森林監視ウェブサイトinspectorulpadurii.roを使って、使用頻度の高い土場を1つ特定した。この土場でEIAは、搬出のために積み上げられた大小のスプルース丸太と、近隣の森に伸びる新しいトラクターの作業道を撮影した。この作業道を辿り、調査者は2つの操業中の伐採現場に入ることができた。
土場には、伐採許可を与えられた企業名S.C. TUC、伐採許可番号1098124、許可期間2017年8月1日~12月1日を示す手書きの看板が掲げられていた。この情報は、ルーマニアの法律で義務付けられているよりも遥かに少なく、さらに重要なことに許可された伐採の種類も公示されていなかった。
土場に最も近い最初の現場でEIAの調査者は「間伐」らしい作業が行われていたことを確認した。世界各国の管理された森林で一般的に行われる間伐では、より大きな樹木が成長する空間を確保するために小さな樹木が切られる。最初の現場でEIAは、収穫する前に印がつけられたらしい小さな切り株、つまり適切な間伐の形跡を多く見かけた。しかしEIAは標準的な間伐の対象とはならないはずの大きな新しい切り株も多く発見した。多くの箇所で、立ち枯れたか病んでいる樹木が切られずに立っている傍で、より大きな木の切り株を見つけた。
この現場の多くの切り株には、伐採作業の途中か直後に作られたらしい、読めるような明瞭な記載もない偽物と思われる印が見つかった。この偽物の印の赤いペンキは、塗られてからほんの数日しか経っていないように見え、所々で木片が混ざっていた。法律で義務付けられた数日前もしくは数週間前ではなく、伐採とほぼ同時期に付けられたことが推察された。
違法伐採業者が金槌とパイプを使って、このような偽の印を作ることがよくあることをEIAは多くのルーマニアの森林専門家から聞かされた。雨風に数週間~数ヶ月間、晒されると、これらの印は正式な印と見分けが付きにくくなるという。
EIAの調査者は、そこから1キロ離れたところに二つ目の新しい伐採現場を発見した。それは昔、皆伐されたエリアに残っていたスプルース林の真ん中にあった。この現場では、ほとんど全ての商業価値のあるスプルースが最近切られていた。
どの新しい切り株にも、文字や数字の形跡もなく、ところどころ木片も混ざったペンキが塗られたばかりの明らかに偽物と分かる印がついていた。1つを除き、全ての切り株は、立木のまま残された一列の細いスプルースによって下方の道路からの視界が遮られていた。道路から見える唯一の切り株は苔の塊で丁寧に覆い隠されていた。
急斜面を降る新しい作業道は、最近、馬が大きなトラックを牽引した跡が伺えた。この作業道は最近使われた形跡のある土場まで続いていた。木材を積み込む際は政府の森林監視ウェブサイトに登録することが法律で義務付けられているが、その場所ではトラック1台分も登録されていなかった。
5~10年前までよく見られた大規模な皆伐が減ってきていることはルーマニアで違法伐採がもはや問題でなくなってきていることを示しているとルーマニア政府は最近、主張している。確かに近年はルーマニアでの目立った違法な皆伐の件数は少なくなっているが、EIAなどの団体が証拠を集めてきたような過剰かつ違法な択伐はルーマニア全国でまだ広く見られ、野生生物の生息地および将来の高品質木材の供給地としての森林の質を著しく劣化させている。
今回、証拠集めを行ったスプルース林では過剰で違法な間伐により森林被覆に比較的大きな更地が空いてしまっていた。ルーマニアの森林専門家によれば嵐になると強風がこれらの更地に吹き込み、木を倒して更地を広げることがあると言う。風で木が倒れると森林管理者は風倒木を整理するためのいわゆる「偶発的な」伐採許可を出すことができるが、証拠が集められた多くのケースで伐採業者がその際に近くの健全な立木も切っていた。このように続く森林劣化により短期間で森林が完全に裸になってしまうことがある。
ルーマニア森林監視ウェブサイトは、2017年後半にこのエリアから少なくともトラック60台分の木材が運び出されたことを示している。森林監視ウェブサイトは木材輸送の最終目的地を示していないので、この木材の大半がどこにたどり着いたかを知るのは不可能に近い。シュバイクホファー社はルーマニアの国立公園から木材を調達していないと主張しているが、EIAは情報筋を通して、この現場からの木材を同社が買ったことを確認した。
ルーマニアの保護林は主に海外市場からの継続的な木材製品需要に圧迫されている。買い手は、特に木材がどこでどのように切られているのかについて注意すべきである。このような高リスクの環境では本格的なトレーサビリティは不可欠である。
ルーマニア森林監視ウェブサイトはルーマニアにおける木材調達の透明性を一定程度担保している点で画期的な進歩の表れである。丸太や材木を買う企業は、森林監視ウェブサイトをチェックして、その発注した木材が本来の供給地の森林から来ているかどうか見ることができる。
しかし重大なギャップがまだ残っている。このウェブサイトは木材の目的地も、森林伐採許可と木材輸送許可の関連性も示していない。ルーマニア全国に1000箇所以上の独立した土場が散在していることも重大な問題である。これらのいわゆる「デポ」では、いろんなところからの丸太が混ざって樹種と材質でふるい分けられ、買い手の要求する長さの短い丸太に切られる。これらのデポの上流までの丸太の本格的なトレーサビリティがなければ買い手は購入した丸太がどの森から来たかを特定できない。このため、このようなデポから丸太を買うどの企業もEUの法律に反する違法で持続不可能な伐採のリスクに完全に晒されている。
ルーマニアでは国立公園での伐採も合法的であり得るが、シュバイクホファー社は、国立公園からの木材を拒絶していると長年、主張して来た。しかし同社は未だにルーマニアでの丸太調達の30~50%を第三者の丸太デポに依存している。この調達のあり方に潜む抜け穴は、同社を国立公園での合法・非合法の伐採に由来する大量の木材を購入するリスクに晒している。
FSC専門家パネルはその2016年の報告書でシュバイクホファー社がルーマニアで違法木材を調達した「明白で説得力のある証拠」が見つかったとし、FSCがシュバイクホファー社との関係を断つべきだと勧告した。やがて2017年2月にFSC理事会は勧告に従った。将来的なシュバイクホファー社との関係の回復のために専門家パネルが定めた主要な条件は同社が「第三者から購入した木材を含め、森林の立木から製材所の門までの」木材の本格的なトレーサビリティを担保することだった。シュバイクホファー社は第三者デポからの調達に関して、この条件を満たすことが出来ず、木材を土場から実際の森林の立木まで辿ることが出来ずにいるので、この基本的で重要な義務を満たすには程遠い状況にある。
数百年来、ルーマニアの農山村にとって林業は生活基盤のひとつであり続けてきた。同国の多くの地域は現在も木材の切り出しからキノコなどの林産物の収穫、エコ・ツーリズムに至るまで、生計手段を森林に依存している。ロドナ山脈国立公園でEIAが目撃した合法・非合法の破壊的な伐採はルーマニアの山村の未来と地方経済の安定にとって脅威となっている。
シュバイクホファー社は、その違法木材調達の証拠が山積しており、国際社会から厳しい目で見られているにも関わらず、
- 違法に伐採された森林からの木材の購入
- 自ら公表した方針と矛盾する国立公園からの調達および
- 供給の合法性もしくはトレーサビリティに対するコントロールの効かない第三者デポからの大量の木材の調達を続けている。
シュバイクホファー社がルーマニアにおける調達に関して森林の立木から製材所までの実効性のあるトレーサビリティを実現するまで、FSCはそのロゴを同社に使わせてはならない。